|
||||
スイス東部の山村、アッペンツェル地方では、大晦日に特大のカウベルを身につけた森の化身のような仮装が駆けめぐり、年の変わり目に現れる悪霊を追い払い、森の恵みと活力を村にもたらす神秘的な行事がみられます。冬の仮面祭でかぶっていた仮面をはずした牛飼い達は、夏の間アルプス山塊の裾野に拡がる高地放牧地の山小屋にこもり、牛の放牧をしながらチーズやバター作りに励みます。一昔前まで里と隔絶していた山での生活の中で、牧人達は独特の文化をはぐくんできました。仲間との交信手段でもあった歌詞のない素朴なヨーデル、伴奏にはカウベルの和音、頭のてっぺんからつま先まで山の生活のモチーフで飾られた色鮮やかな晴れ着、力自慢のダンス、そして粋で誇り高い牧人魂。 酪農製品の消費地が近く、この地域の牧人達はずばぬけて豊かでした。村に家を持たなかった彼らは、冬場は財産である牛を連れて、あちこちの農家を渡り歩く放浪生活を送っていました。春に山へ牛を追い上げ、秋に里へ牛を追い降ろすアルプ行列は、かれらにとってもっとも晴れやかな行事で、晴れ着で身を飾り、自慢の家畜の大部隊を引きつれて、荷車に家財道具などの全財産をのせて行進します。 アッペンツェル地方には、素朴な絵を家の壁や家具に描く伝統がありましたが、19世紀前半、アルプ行列のモチーフが現れ、牧人の生活、特にアルプ行列の様子が盛んに描かれるようになります。日銭を稼ぐために絵を描いていた人々に、写真代わりに絵を注文する牧夫や農民も少なくなかったのです。古い板絵から現代の絵本の挿絵まで、おびただしい数の素朴画は、スイスの民俗芸術を代表するものです。 |
||||
|
|
|||
1800年ごろの油絵 後の牧夫がチーズ作りの道具を背負い、 その右の雄牛は乳搾り用の椅子を頭につけている |
高地放牧地に到着したアルプ行列 Ulrich Knechtli 1903年 ボール紙に描かれた油絵 |
|||
|
|
|||
先頭の牧夫が担ぐ桶の底には、アルプ行列を描いた板絵を はめる(19世紀初頭から) Johannes Zuelle 1874年 |
農業に従事していた人が、61才から描き始めた作品 Emil Preisig 1984年 アクリル画 |
|||