スイスの越年仮面祭 Silvesterkläuse

ウルネッシュの画家、Ruedi Adlerの作品4点

スイスの北東部の丘陵地帯の村々に伝わる仮面祭 

 

 

大晦日の朝、まだ暗いうちから恐ろしげな仮装の一群が

カウベルや大鈴を響かせながら、どこからともなく現れる

 

大晦日の早朝、スイス北東部のアッペンツェル地方(Appenzell) にある山村、ウルネッシュ(Urnaesch) の宿でまどろんでいた私の耳に、突然がらんごろんという大きな音が飛び込んできました。急いで窓辺にかけよると、雪景色の中、遠くの林の前を緑の影法師が何体か足早に歩いていきます。これが、カウベルを腰にくくりつけ大晦日に村中を駆けめぐる、クロイゼと呼ばれるミステリアスな仮装との最初の出会いでした。それから30年あまりたった今でも、シルベスタークロイゼ (Silversterklaeuse) と呼ばれるこの越年祭は、心から離れません。仮面の奥から聞こえてくる静かな歌声と、激しいカウベルの音も忘れられません。何度かこの祭を体験し、写真を撮って報告を書き、国立民族学博物館(大阪府・吹田市)にはクロイゼの衣装を納めました。

 

仮装は3種類あり、恐ろしげな仮面と木の葉や毛皮で身を包んだクロイゼ、能面のような穏やかな面と大きな頭飾りをつけた華やかなクロイゼ、樹皮や松ぼっくりで作った面に緑の葉でできた衣装をつけた森の化身を思わせるクロイゼがあります。6〜10人前後の男たちがグループを組み、村に点在する家から家へと駆けめぐり、カウベルを荒々しく響かせたあと、素朴なヨーデルを歌います。全体で20近くのグループがあり、いつどこにクロイゼが現れるかはわかりません。村人達はクロイゼの訪問を心待ちにしていて、大晦日の早朝から元日の朝まで、村はクロイゼの鳴らす特大のカウベルとかれらの歌声で満たされます。

 

年の変わり目の張りつめた空気の中で繰り広げられる、遠い昔の記憶を呼び覚ますようなシルベスタークロイゼの祭の魅力は語り尽くせません。朝日カルチャーセンターなどで、民俗調査で得た情報を基に、ヨーロッパの基底に流れる古代信仰との関係を考えながら、この仮面祭の謎解きを試みました。

        ミステリアスな越年祭レジュメpdf   祭の写真pdf

 

 

先頭と最後尾は女装のクロイゼ 馬具につける大きな鈴を響かせながら、軽快に跳ね回る  手作りのかぶり物には、村の生活を題材にした木彫りの人形が載っている

 

村人の家を訪れ、歌詞のないヨーデルを歌うクロイゼたち