ウルスリのすずとカリジェット Schellen-Ursli

1945年に出版された「ウルスリのすず・Schellen-Ursli」は、スイスを代表する絵本として世界中で愛されています。

アロイス・カリジェットAlois Carigiet)の挿絵は、素朴な装飾が目を惹く民家がたち並ぶ小さな山村の暮らしをほのぼのと伝えます。テキストは、セリーナ・チェンツ(Selina Chönz)が書きました。(日本の翻訳本とは両者の名前の表記が異なりますが、現地で確かめた表記を用います。)物語の舞台は、スイス南東部のグラウビュンデン州 (Graubünden)のエンガディン地方、スイスのヒマラヤと呼ばれる山岳地帯です。絵本に描かれたような美しい村々が、谷に沿って連なっています。

 

幼児教育に携わりながら、子ども達のために詩や物語を書いていたチェンツは、出身地のエンガディンの伝統的な祭を題材に、ウルスリ少年の話を作りました。本にしたいと願った彼女は、同郷の画家、カリジェットに挿絵を描いてくれるように頼みました。彼はチューリッヒでのグラフィックデザイナーとしての活動に終止符をうち、絵を描くことに専念するために故郷に戻ってきたところだったのです。ロマンス語を母語とするグラウビュンデン州出身の二人でしたが、カリジェットの故郷は州北部のライン川源流の谷(Surselva)、チェンツは州南部のイン川の源流の谷(Engadin)生まれです。村の佇まい、家の造り、祭の習俗など、両者の故郷は異なる点が多く、はじめて子どもの本の挿絵を描くことになったカリジェットは、エンガディンのグアルダ村(Guarda)にあるチェンツの家に数ヶ月滞在し、人々の暮らしを観察し特徴のある伝統家屋をスケッチしながら彼女と構想を練り、絵本を完成させました。

 

絵本は大変な評判となり、これをきっかけに、二人のコンビで『フルリーナと山の鳥』、『大雪』というウルスリ少年と、その家族の暮らしを題材にした絵本が生まれていきました。いずれも、アルムの自然と関わりながら、成長していく子供の話です。

 

31日に行われるチャランダマルツの祭Chalandamarz (ラテン語 chalanda = 月の最初の日、marz = 3月)では、子ども達はそれぞれ鈴を身につけます。ウルスリは鈴を借りに行きましたが、幼いので小さな鈴しか貰えませんでした。なんとか大きな鈴を手に入れたいと思ったウルスリは、雪に閉ざされた高地放牧地にある山小屋へとでかけます。夏にそこで大きなカウベルを見たからです。というように話は進んでいきます。果たして冬の山小屋にカウベルはあるのでしょうか。チャランダマルツとはどんな祭でしょうか。ウルスリの村にある、独特な民家の構造はどうなっているのでしょうか。どのように家畜と住み分けているのでしょうか。

朝日カルチャーセンター公開講座と小平中央図書館の民話講座のレジュメに、説明をのせてあります。

 

レジュメ.     絵本の要約

 

 

ウルスリの家のモデルとなった家(右)

左のチェンツの家にカリジェットが滞在した

生家の向かいにはカリジェットの壁画

 

ウルスリの井戸、この周りを鈴をつけた子ども達が回る